むかしむかしのお話です。
あるところに不思議な力を持つ竜がいました。
竜はその力で、人々の願いを叶えていました。
病気を治してほしい、雨を降らせてほしい、作物を実らせてほしい、嵐で壊れたものを直してほしい……人々は食べ物や宝石を持って、竜に願います。
神様のように崇められる竜は、それがとても気分が良かったので、願われるまま、叶えていきます。
あるとき、若い女が一人、竜のもとへやってきました。女は願います。
“我が子を生き返らせてください”
死んだ人間を生き返らせたことはありませんでしたが、竜は自分の持っている力の限界を疑ったことはありません。金や銀や、色とりどりの宝石と引き換えに、女の望みを叶えてやることにしました。
脆い人の子に傷がつかないよう、魔法の息を吹きかけます。子供の手が動きました。もう少し、もう少しで生き返る…。
と、突然子供の上に黒い”なにか”が現れました。”なにか”はどんどん大きくなり、竜の宝物を飲み込んでいきます。なにが起こっているのか全くわかりません。竜は子供と女を連れて逃げました。
しばらくすると”なにか”は止まりました。竜の棲んでいた山は”なにか”に飲み込まれ、無くなってしまいました。
竜の魔法の息を吹きかけられた子供が、女の腕のなかで目を開けます。女は喜びました。しかし竜は、子供の様子がおかしいことに気づきます。
まるで空っぽのような。
女は子供の中身を取り戻すため、そして竜への恩と愛から、竜と不思議な力の研究を始めました。
研究を進めていくうち、こんな噂が竜たちのところにも聞こえてきました。
“精霊というのものがこの世界のすべてのもとらしい”
“魔法は精霊の力を奪い、この世界を壊すものらしい”
噂を聞いた人々は、突然現れた黒い”なにか”を思い出し、その原因である竜に敵意を向けてきます。
願ったのは人々の方なのに、何故彼らは自分だけを責められるのか。
どんな剣も槍も、竜の黒い鱗には傷ひとつつけられません。どんな優れた鎧も、竜の鋭い爪の前では紙切れも同然です。それでも量懲りもなく自分を殺しにやってくる人間たちに、竜は嫌気がさしてきました。そんな竜に小さな白い影が囁きます。
―かわいそうなGuaddieloe!愚かな人に期待してはいけないよ。
竜は邪竜と呼ばれるようになり、魔法で怪物を生み出し、世界を壊していきました。
傷だらけになった世界を癒したのは精霊と繋がりのある青年。白い竜を仲間にした青年は、邪竜に戦いを挑みます。
激しい死闘の末、青年は邪竜の封印に成功しました。
青年は英雄として今でも各地で慕われていますが、邪竜との戦いのあと、彼がどこに消えたのかは誰も知りません。
むかしむかしのお話です。