青髪と角の話

 

「西の大陸のことはご存じで?特に北の方は寒さが厳しく、雪の降らない日は珍しいそうです。

なに、前置きは要りませんか?では早速、凍る大地の上で生活する人々から聞いた話をひとつ、お話しましょう………」

 

冷たい風、白い雪、凍る息。男達は赤い手に汚い手袋をつけ、地下へ進む。外よりも地下の方があたたかく、作業がしやすい。

小さなこの村唯一の収入源は鉄床から採掘される銅だった。他に仕事もないため、男は皆この鉱山で働いている。

青い髪の彼もその一人で、毎日朝から晩まで岩の壁を叩いていた。

 

 

 

雪が降るある日、青髪の男は村の近くで倒れている女を見つける。真っ白な地面に黒い肌が目立っていた。白い頭巾に薄い服。顔色の悪い女を放っておくことも出来ず、男は家へと連れ帰る。

暖炉に火をつけ、毛布の上に座らせた。紫の唇が赤みを帯びてきた頃、女は目を開ける。

 

―私を助けたのは貴方?

―頭巾の中をご覧になってないのね。

―これを見れば雪の中にいさせてくれたでしょうに。

 

女が頭巾を取る。髪の毛の間からのぞく2本の角。暖炉の火でキラキラと金色に輝いた。

 

―どうせすぐに死ぬのよ。造られた化け物は長く生きれないもの。

―彼女はどうして人の記憶まで奪わなかったのかしら。

―心まで化け物であったら悲しくならないのに。

 

女の目から涙がこぼれ落ちる。貴重な木を燃やし、一番上等な毛布で暖めてやったのに感謝どころか恨み言を言われた男は憤ったが、女の流す涙を見て開きかけた口を閉じた。

 

―もう良いでしょう。

―さあ早く化け物を殺してちょうだい。

 

―断る。

 

―どうして。

 

―せっかく助けたのになぜ殺さなきゃいけない。

―そんなことをしても助けるのに使った薪も、時間も帰ってこない。

―おれにメリットがない。

 

―何が言いたいの。

 

―返すものを返してから出ていくなり、死ぬなりしてくれ。

 

―私に働けと?

 

―ああ。

 

―勝手な人だわ。

 

男の家で女は働いた。外には出られないため帰ってきた男に世話を焼くのが女の仕事になった。

 

「ええ、よくある御伽噺のように彼らも愛し合うようになるのです。それに長い時間はかかりませんでした。」

 

二人がであってから2年ほど経った頃、女は子供を産んだ。青い髪で黒い肌の女の子だった。

生まれた赤子を見て産婆は悲鳴をあげ、逃げ出した。女の帽子の下と同じように、2本の角があったのだ。産婆は叫ぶ。

 

 

 

村の家に火が灯り、武器を片手に人々が迫る。

 

 

 

男は女と生まれたばかりの赤子を連れて逃げる。誰の悪意も届かない場所を目指して。盲目の王子や11人の兄をもつ姫も目を瞑るような旅。しかし灰かぶりや眠り姫も羨むような甘く、愛に満ちた逃避行。

困難な旅だったが、二人は幸せだった。赤子も順調にすくすくと育っている。

 

ああ、だが幸せは長く続かない。

 

―もうそろそろ私は死ぬでしょう。

 

男は耳を疑う。女は続けた。

 

―貴方の声も遠いの。とても寒くて暗い場所にいるわ。言ったでしょう、作り物の寿命は短いと。

 

赤子を抱き締める手が微かに震えているのに気づく。

 

―おかしいわね、貴方に出会う前は救いは死にしかないと思っていたのに、死ぬのが怖いだなんて。

 

男は震える女の手に自分の手を重ねた。

 

―短い人生だったわ。でも、いいの。作り物の私でも”本物”を貰ったから。

 

女は微笑む。

 

―この子をお願いね。

 

「それから数日経った頃、角の女性は静かに息を引き取ったそうです。男は彼女が残した赤子を抱え、また旅に出ました。その後の彼らの話は伝わっていません。もしかすると、あなたの住む町で暮らしているかもしれませんね。」